届かない声
「…あれ?」

 誰かに呼ばれたような気がして、彼女は顔を上げた。だが、そこには誰もいない。

 教室はがらんとしていた。外の景色はいつの間にかのっぺりとした闇に包まれていた。

 何故自分はここにいるのだろう。

 彼女は、何も思い出せなかった。教室で、何かを待っていたような気がするのだが。

「…あれ?」

 大切なものだったように思えるのに、彼女はただ自分が泣いていたということしかわからず、結局その『何か』を思い出せず。

 やがて荷物をまとめ、熱を帯びたように温かく感じる頭をかきながら、彼女は教室を出て行った。

 誰もいなくなった教室の、その真ん中。

 彼女が座っていた席の、その隣には、一輪の花が供えられていた。風もないのに、その花は時折かたかたと震えた。まるで涙をこらえているかのように、かたかたと。


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