Turquoise BlueⅡ 〜 夏歌 〜


立ち上がった時
テーブルに両膝を強打した

くじけながら立ち上がり
二階への廊下を
左手を使いながらあがる

ドアに思い切りぶち当たったけど
自分の部屋は、引き戸だった


びっくりした顔で
マキちゃんが中から開けてくれる

その顔に、青い手紙を差し出し
マキちゃんも裏に返した

遮光土偶像みたいな目が
大きく、見開いている


慌てて指で封をひらこうとしたら
マキちゃんに制止された

普段あまり使われていない
部屋の1/3を占めている勉強机の上から
ハサミを出す


そっと開くと
紙のにおいと、少し、煙草のにおい

…吸い過ぎなんじゃないの?
前はわらかなったかもだけど
随分前から、お父さんが禁煙してる

青い便箋は、綺麗な三つ折り

ひらこうとしたら
隙間から水色の、長四角の紙が
サラサラと落ちて来た

マキちゃんがそれを拾うと
読み上げる


『"Global Record Presents"
日比谷野外音楽堂

出演バンド予定
『Azurite』
"CheaーRuu"
羽間ミチロウ
Zattsu Low
etc

講演日 8/25
開演16:00  Start 18:00


――――― それは

Global Record事務所合同の
ミュージシャンがやる
野外ライヴのチケットで
三ヶ月前、初日からウチらも
電話をかけまくったけど

『お待ちください』のアナウンスばかりで
途中で通じなくなり
結局一枚も取れなかった物だった


次の日の新聞には
『回線がパンクした』と載って

CDを貰った事で、どっか
ファンクラブに入らなくても
うちらは取れる
多分送ってくれるだろうみたいな

後もう一個
……何か
ファンクラブに入るのは
ウチら一緒にセッションまでした
一応ミュージシャンの端くれだし
違うじゃん?とか
どっかで思ってて

皆黙ってたけど
うちらもファンと変わらない現実を
突き付けられた事件だった

マキちゃんは
それだけ確かめると
手紙を開ける事はせず
私がそれを開くのを、じっと待っていた



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