君が為に日は昇る
「ほぉ。お前。ただの餓鬼じゃなかったのか。」


それは紙一重だった。
回避したと言うより反応したと言った方が正しいだろう。


長身の男が刀を振るう直前、僅かに膨張した殺気。
それが夜太の体を無意識に下がらせたのだ。


━この男…!いきなり!


夜太は更に後ろに距離をとりながら、鞘から引き抜いた刀を両手で握り締めた。


腰を深く屈め、刀の鍔を側頭部に添えるように構える。


「名乗れ餓鬼。」

「何を…?」

「名乗れと言った。耳が聞こえないのか?」


長身の男は肩に刀を乗せ、夜太に尋ねる。


男から既に殺気は消え失せていた。が、その目は夜太をまるで品定するかのように捕えて離さない。


━なんなんだこの男…?


今までに会った事の無い種類の人間。夜太は困惑していた。


突然斬りつけて来たかと思えば次の瞬間には名前を尋ねてくる。


━訳がわからない。


沈黙。彼にはそれしか出来ることが無かった。
それに対し、痺を切らした長身の男が再び口を開く。


「ふん。名乗ることすら出来ぬか。」


刀を鞘に納めながら長身の男は苛立ちを露にする。
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