この胸いっぱいの愛を。
「なぁ、神田桃香」
「……なんですか?」
相変わらず、私をフルネームで呼ぶ先輩。
普段よりも静かな声色に、私は門に手を掛けたまま振り返った。
「部長は、俺の気持ち知ったら…
軽蔑するかな」
震える声で言った先輩は今にも泣きそうな顔をしていた。
声と同じくらい震えている拳には、きつく握りすぎたのか血が滲んでいる。
「先輩には…将兄がそんな人に見えるんですか?」
確かに世の中には、軽蔑する人もいるだろう。
男が男を好きになるなんて、気持ち悪がる人もいるかもしれない。
私だって、最初は信じられなかった。
───────だけど。
先輩から直接、将兄への思いを聞いて……
普通じゃないなんて、一瞬でも思った自分に無性に腹が立った。
それと同時に、思い知らされたんだ。
恋愛に、性別は関係ない。
人を想う気持ちは、それが誰に対するものであっても、同じなんだって。
「……将兄は、先輩のこと軽蔑なんてしません……絶対に。
これだけは、神に誓って言えます」
私は真っ直ぐに先輩を見つめて、断言した。
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