この胸いっぱいの愛を。
何か喋ろうにも、声が出ない。
酸素を求める魚のように、口をパクパクと動かすだけ。
私は目だけ動かして、肩に顔を埋めている先輩を見つめた。
無言のまま、先輩は私を抱き締める手に力を込める。
「駿河、先輩?」
ようやく出た声は、自分の声とは思えないくらい擦れていた。
「ごめん……あと一分、いや30秒だけ……
このままで、いさせて……」
くぐもった声と、先輩の鼓動が伝わってくる。
私はそっと、先輩の背中に手を回した。
子供をあやすように、自分よりも広いその背中をさする。
先輩は、何を思って私を抱き締めたんだろう。
そんなことが脳裏を掠めた。
だけど…………
「ありがとな……神田桃香」
今にも消えそうな声で呟かれた言葉を聞いた瞬間、理由なんてどうでも良くなった。
私達の頭上には、満天の星空が広がっている。
星達に包まれているような感覚の中……
私はそっと、目を閉じた。
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