砂漠の王と拾われ花嫁
「アーメッド、この娘にマハルをつけろ」

そばに控えているアーメッドに指示すると、彼は驚いた顔を隠さなかった。

「なにをおっしゃいます!?」

(得体の知れない娘に女官長をつけろとは、ラシッドさまはどうかしている)

「賛成しかねます。この娘は刺客かもしれないのですぞ?」

寝台の上で泣いている娘を疑うアーメッドを、ラシッドは一笑に付す。

「こんな小娘に、わたしが殺されると思っているのか?」
「そのようなことは……」

笑顔の中に有無を言わさないラシッドに、アーメッドは口ごもる。

殺されるという言葉を聞いて、莉世はハッと顔を上げたが、家族のもとへ帰りたい気持ちが胸を詰まらせ、涙は止まらない。大粒の涙が夜着の胸元を濡らしていく。

「そんなに泣くと、身体中の水分がなくなるぞ?」

頭の上から諭すような優しい声が聞こえた。

「……ヒック……そ……ヒック……そんなわけ……ない……」

(この人は慰めてくれているの?)

「お、ヒック……お願いです……わたしを……日本へ帰して……」

そう言って泣く娘に、ラシッドは目を奪われていた。砂漠の太陽にさらされ、顔はまだ赤く唇はガサガサだったが、美しいと思っていた。

「名前をなんと言った?」
「野山莉世です……リセ……」

素直に名前を口にするも、涙は止まらない。

「リセ……」

ラシッドは記憶するように呟く。
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