砂漠の王と拾われ花嫁
「おい! そこの娘!」

鋭い男の声に、莉世は遠のいていた意識を取り戻す。

「ほっといて。夢から覚めるんだから」

唇が乾いて動かしづらいが、目を開けないままぼそっと言う。

「なにを言っている。お前は何者だ!?」

赤くなったむき出しの肩をガシッと掴まれて、あまりの痛さに莉世の目が開く。

「痛いよ!」
「ラシッドさまに向かって、その口のきき方!」

もうひとり男がいて憤慨しているのがわかったが、莉世の頭は朦朧としてどうすることもできない。

莉世の意識が再び遠のく。

「アーメッド、水を飲ませろ」

アーメッドと呼ばれたひょろっとした青年は娘を抱き起すと、羊の革で作られた水筒を口にあてがい飲ませる。
喉が渇ききっていた莉世は、無意識にごくごくと水を喉に通していく。

ラシッドは二メートルほど離れた馬の背から布を手にして戻ってくる。

なんにでも対応できる綿布だ。その綿布を娘の身体に手際よく巻く。

「ラシッドさま? 何を?」
「ここにいたら十分で死ぬ」
「しかし、得体の知れない者を王宮に連れていくのはいかがなものかと。着衣も見たことがありません」
「牢屋にでも入れておけばいい。わたしは先に戻っている」

お付きの青年、アーメッドはラシッドの気まぐれにため息を吐き、莉世を抱えると荷物のように馬の背に乗せた。

主のラシッドはすでに黒毛の馬を走らせている。アーメッドは急いで騎乗すると、主を追いかけた。

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