砂漠の王と拾われ花嫁
娘が同じ部屋ではラシッドの政務に支障をきたしてしまうと懸念したアーメッドは、頑なに部屋を変えるよう進言した。

ラシッドは命に関わるほどの病気にさせてしまった後悔から、そばにおいておきたいと思っていたのだが、仕方なく隣の部屋へ移動させた。

莉世の熱が下がり始めたのは二日後。手厚く看病されてから、彼女は一度も目を覚まさなかった。

その間、ラシッドは莉世を心配していたが、政務が多忙でアーメッドや女官任せだった。

この数日間、政務が終わるのは夜更け。それでも一日に一度は様子を見に行くラシッドだった。

月明かりに照らされる回廊を進み、自室手前の扉を開けて、ラシッドは莉世の部屋に入った。

寝台に近づくラシッドに気づいた付き添いの女官は、慌てて椅子から立ち上がると、腰を低くして頭を下げる。

「陛下、娘が先ほど意識を取り戻しました」

ラシッドは寝台に近づき、規則正しい呼吸をしながら眠る娘を見た。

オレンジ色のランプの灯りに照らされている莉世。娘の呼吸が楽になっているのを見て、安堵したが怒りもわく。

「次に目を覚ましたときは、すぐに知らせろ」
「も、申し訳ありません。必ずお知らせいたします」

女官はラシッドの機嫌を損ねたことに気付き、絨毯にこすり付けるように頭を下げた。

目覚めた娘とラシッドが対面したのは、翌朝だった。

ラシッドが執務室に向かおうと部屋を出たとき、アーメッドが慌ててやってきた。

「ラシッドさま! 娘が目を覚ましま――」
「ここから出して!」

アーメッドが出てきた扉から娘の金切り声が聞こえ、ラシッドは部屋の中へ進んだ。

「なにを騒いでいる!?」

顔を真っ赤にした娘は寝台の向こう側におり、枕を抱えていた。ふたりの女官はオロオロしている。

四柱式の天蓋から下がっていた薄布は、床の上に落ちていた。
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