アタシ
次の日の5時、アタシは約束通り五稜郭の〇〇に立っていた。来るはずじゃなかったのに。確かに多少気持ちは揺らいだけど、エンコーとクスリだけは一生やらないって決めていたアタシはどこへ行ってしまったのだろう。
 立ったままずっと空を見上げていた。空ってこんなに広かったっけ。雲ってゆっくり移動するんだね。きれい。突然ポケットにしまっていた携帯が鳴った。ヴィジュアル系の重たく激しい曲。曲にびっくりしたのと、これからエンコーという犯罪行為をするんだ、という緊張で鼓動が高鳴る。でもこういう感覚、嫌いじゃない。
(着いたよ、白い車。ナンバーは…)
辺りをおどおどしながら見回す。いや、びくびく、といった方が良いだろうか。行動は大胆だが実は小心者、まさしく現代っ子気質なアタシ。
 ふと目の前を白い車がゆっくり通る。メールに書かれていたナンバーだ。運転手と目が合ったのでとっさに笑顔をつくり軽く頭を下げると、向こうも無表情ではあるが頭を下げてきた。写メールよりずっと太っていて汚らしい容姿だった。うげっ…こんな気持ち悪いオヤジとヤるのか…と思い、一瞬気が遠のいたが、もう後戻りはできない。アタシはやけくそになって車に乗り込んだ。車の中は太っている人特有のすっぱい汗の臭いとオヤジの加齢臭が混ざり合い、むわっとしていた。思わずアタシは顔をしかめる。
「ユミちゃん、童顔だね。」
そう、そういえばアタシはあのサイトでユミと名乗っていた。ユミ、23歳、フリーターで趣味はコスプレ。コスプレは意外とオヤジ受けがいい。アタシは輝の言葉を無視して外を眺めていた。
「ユミちゃん何歳だっけ。」
「17歳。」
つい口がすべった。えっ、という顔をする輝。アタシとしたことが…やらかした。
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