音楽バカ

「早速、演奏を聴かせてもらえますか?」

菅波が希良を見る。
希良は頷いた。

指揮者がいないこの部で指揮者はやはり生徒だ。大抵は希良がこなす。

空気がやや張りつめる。希良が周りを見渡す。準備が終わった頃に希良が手を挙げる。それと同時に楽器もあがった。
そして希良は静かに振り始める。
ティンパニーが張りつめた空気を和らげるように響いた。
この日のためにみんな力を合わせてきた。その日の演奏は今までで一番良い出来だった。

終わった。
遙が拍手をしながら言った。

「チェスフォード・ポートレートですね。」

「知ってるんですか?」

希良は後ろを振り返る。

「俺も昔吹いたことがあります。
 初めて吹いた大曲です。」

「そうだったんですか…」

そして遙が決心したように立ち上がる。

「実は迷っていました。
 でも決めました。」

「何を…ですか?」

「この部で
 コンクールに出場しましょう。」

いきなりだった。
誰もが予想しえない展開に一同唖然とする。静まりかえった部室に閉め切った窓の向こう側から野球部の声が聞こえた。

「コンクール……」

希良が呟いた。今まで一度も考えたことがなかった。
まるで現実感のない響き。
それをきっかけに部室はざわつきだした。
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