音楽バカ
―「おかえり、宮路。」
さすがにまだ気まずいのか、菅波が遠慮がちに話しかけてきた。
正直、菅波に対しての気まずい想いというのはどうでも良くなっていた。
どちらかというと、希良は罪悪感で胸がいっぱいだ。
「…ただいま。」
そのまま希良はうつむいた。
「…。」
「…。」
「空気重たいんだよボケっ!」
その時、下倉の蹴りが入ってきた。
その蹴りは見事に菅波の背中をとらえ、菅波らしくないギャグ漫画なぶっ飛び方をした。
「なッ…?!」
希良があっけにとられていると、石橋が後ろから話しかけてきた。
「おかえり。」
「……ごめん、石橋。」
「いや、俺だけに謝るな。」
「…うん。」
「そーだそーだ、俺にも謝れ。」
いつの間にか背後にまわった下倉が希良の頭をはたいた。
「痛ッ」
「いいか、勘違いすんな?
この部はお前の部じゃない。
1人でそんな暗い顔しやがって自惚れんなや。」
「…!
わかってる、んなこと…」
「ただし!
お前が欠けたらうちの部はうちの部じゃねー。」
「え…?」
「これから、ビシバシいくからな。」
「う…ん…。」
「さぁて、練習だ。」
下倉は楽器庫に行ってしまった。
「訳してやろうか?」
石橋がぼそっと言った。
「へ?」
「1人で全部抱え込むな。
お前だけの部じゃない。
いなくて寂しかった。
おかえり、宮路。
…そんなとこじゃないか?」
「本当…素直じゃない奴だな。」
菅波が背中をさすりながら言った。石橋と希良はそれを見て笑った。
石橋は笑いがおさまったところで改まって言った。
「何にしても、おかえり。
今日からまた頑張ってくれ。」
「あぁ、そうだな。」
「うん、ただいま。」