SEASON
文句を口にする前に陽生はあたしの腕を引っ張って、連れ出す。

向かう先はもちろん、入った時に見たあのステージだ。

あそこで本当にあたしは弾くの?

何度となく自分に繰り返す疑問に現実は変えられないということを再確認する。

現実はひとつしかなく、変えられるものではない。

今の状況も生活の現状も。

「なーに考えてんだよ」

額に痛みが走るのと同時に上から声が降ってきた。

その声はもちろん陽生ので、デコピンされたんだな。

千明といい陽生といいなんでこうもデコピンばっかするんだろ。

リアルにかなり痛いんですけど。

「今は楽しく弾く事だけを考えてればいいんだよ。それとも俺の言葉信じられない?」

「そんなわけないけど……にゅわ!」

デコピンの次は両頬を引っ張られた。

うまく言葉を言えるほどあたしは器用じゃないから廊下の真ん中で奇声を発してしまった。

一応これでも花の女子高生なんだよ!

とか言ってやりたいのに口からはうまく言葉を紡ぎ出せない。

「けど、は、なし。全部俺らに任せとけばいいんだよ」
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