私の中の眠れるワタシ

最後に、照明を落としたら練習場を後にしようと思っていた。

誰もいない事を確認して、施錠して出る。

徐々にこの仕事にも慣れてきた。


練習場の扉を最後にもう一度開くと。



−−そこにはセツナさんが一人で、踊っていた。

いや一人じゃない、私にはたしかに、谷田さんも見えた。

何も曲がかかっていないのに。

ワタシにはいつか聞いた、恋人の心変わりで静かな別れを決意するあのルンバの曲が聞こえた。


私は、目をこする。幻かもしれない。

……でも、彼らはやはり、そこにいた。

ワタシの抱き続けた罪悪感なんて入りこむ隙もない、二人で一つの心と身体だった。


彼らに、ワタシは溶かされてゆく。

今まで、誰にも与えてもらえなかった温もりで、固く分厚い氷の塊が。

彼らの熱で溶かされていくのを感じた。



こすり続ける瞳からは、溶けて水になった液体があふれだし、はじめて知るのだ。




< 291 / 433 >

この作品をシェア

pagetop