私の中の眠れるワタシ
「すごーくいいニオイがする……」
嶺は、私に近づき鼻をクンクンとさせた。
子犬のような彼の振る舞いに、
「私、フレグランス屋で働いているから、鼻が慣れてしまってるの。香りきつかったらごめんなさいね。」
と言いながら避けるように、彼から少し離れて座りなおした。
「これ、なんて香水?」
「香水じゃなくて、トワレよ。」
「トワレっていう名前の香水なんだー!」
訂正するのもバカバカしくなって、身体の向きを変えた。
「ねえ、蜜さ……じゃなくて、み、蜜。今度お店に行ってみても、いいかな?」
「フレグランスを選びにくるなら、いいわよ。」
初めて優しく話した私に、満面の笑顔で握手をもとめた。
私は曖昧に笑い、仕方なく握手をした。
その日から一ヶ月の間。
彼は事あるごとに店を訪れた。