私の中の眠れるワタシ
私は、化粧室に立ち寄り、フレグランスを纏う。
でも、それはマフラーの中に閉じ込められて、自分しかわからない程度に香る事で、安心した。
地下鉄に乗る。
ラッシュ時の混雑はすぎ、それでもまだ、座れる程度までは空いていない。
私は、入口付近でテスリに立ったまま寄り掛かっていた。
「お疲れ様です。」
後ろから声がした。
私は、正面のガラス越しに、暗闇に浮かび上がる姿をちらっと見た。
隣のテーブルにいた男性だ。間違いない。
振り返り、目礼した。
「帰り道、こちらですか。」
「いえ、会社によって帰るので。」
私は短くそう答えた。