私の中の眠れるワタシ
私の唯一の救いは、これから私が大人になっていくという事だった。
そうしたら、きっと。
自由になれる。
今の成績を維持して、なるべく偏差値の高い高校に行けば、自由の幅は広がる。
アルバイトを許可してくれる学校がいいな。
夜遅くまで時間を潰せるうえ、自由の幅を広げるために必要な、お金まで手に入るのだから。
そんな事を想像していたら、勉強なんて現実逃避できるうえ、最高の武器にもなり得るのだから、やらない訳がなかった。
帰宅時間をなるべく遅くするために部活を。
そして、帰ってからの時間を、交換日記と宿題で潰せば、あっという間に大人しく、忙しそうに、一日が終わる。
−−−このリズムを、決して狂わせまい。
中学に入学してすぐ、そう決めた。
今日も、道具をしまい、テニスコートを最後に出たのは私だった。他の部員はもうすでに、帰っていた。
当たり前かもしれない。試合前でもないのに、夜の八時まで壁打ちしている中学生もそういない。
もう、真夏はとうに過ぎ、白いテニスボールが見えなくなるのが、やけに早い事に気付くと同時に、夕焼けの美しさに息を飲む頃だった。
……トンボが多い。
すでに、日は沈み、星も輝きはじめていた。
他の部活も、ほとんどいない。
体育館だけ、どこかの部活がいるようだ。
私はテニスコートの鍵を、相田先生に返却に行く。
さっきまでテニスコートにいたから、きっとまだいる。
顧問が部員を残して帰ることは、通常ありえない。
監督する義務があるはずだ。
私は熱心なふりをして、常にそこを逆手にとっていた。
……帰りたくない。
少しでも、学校にいたい。
私にとって、シンデレラの魔法がかかる、この場所に。