私の中の眠れるワタシ
真っ暗な玄関。
先生の靴は。
……ある。
一個飛ばしで点いている蛍光灯の下の、普段より薄暗い廊下。
二階の職員室まで、いつもより長い気がした。
職員室の前で、バッタリ相田先生に会う。
「おぉ、長崎。随分遅くまでいたな、大丈夫か。」
私は軽く頷いて、鍵を手渡すと、普段の元気いっぱいの様子からつい少しトーンが落ちて、
「……はい。大丈夫です。ありがとうございました。」
と言うのが精一杯だった。
相田先生は、私の様子を見て、どこか具合が悪いのか、はたまた疲れているのだと思ったらしく、
「遅いから、送ってやるよ、乗っていけ。」
と、窓から自分の車を指指し、わざとらしくニッコリ微笑んだら、少し急ぎ気味に歩きだした。
私は、遠慮したり、喜んだりする元気もなく、黙って着いていく。
歩いて帰るより、早く家に着いてしまうな……。
そう考えると、決してラッキーでは、ない。
車まで来たところで、
「ありがとうございます、よろしくお願いします。」
と素っ気なく言って乗り込んだ。
先生自慢の車だったらしいが、車に対してお世辞の一つも言う事なく、窓に頭をもたれていた。
その様子がますます、いつもと違って見えたのだろう。
緊張してると思ったのか……
先生と生徒というより、友達同士のような、少し『馴れ馴れしい口調』で先生が話すのを、敏感に感じとった。
私は驚き、窓から頭を起こし、先生の方を向いてしまう。
私が少し元気になり、いつもと同じ口調で話せるようになってきたのが嬉しそうに……
とにかく、あの日の先生は、初めて会う先生だった。