スリー・イヤーズ・カタルシス
彼女は
思考が停止したように
おれの差し出した袋を
じっと見ていた。
おれも
袋を差し出したまま
じっと動かずにいた。
彼女が動くまで
おれは動いたらいけないような
気がしたんだ。
ついでに目もつぶってみた。
すると
この真っ暗闇のすき間の外から
車のクラクションや
酔っ払いの大きなしゃべり声や
若い女の
すっとんきょうなはしゃぎ声が
聞こえてきた。
それらの音が
みんな馬鹿みたいに聞こえて
それでおれは
いつの間にか腹が立っていた。
今おれの目の前にいる少女が
こんな悲惨なことになる前に
助けてやれる人間が
この街のどこにもいなかったのか。
そう思うと
やけにくやしくなってきて。
でも
おれもその一部にふくまれるじゃないかと
世の中とおれ自身に
一度に腹を立てなきゃいけなくなると
わかったんだ。
おれに今できることは
この腕が痛くなって
ちぎれそうになったとしても
引っ込めちゃだめだということ
それだけだった。