スリー・イヤーズ・カタルシス
彼女が水を飲む様子が
気配で伝わってきた。
おれはそこでやっと
その狭い闇の中に
腰をおろすタイミングを
つかんだような気持ちになって
おれは膝を折り曲げて
腰をおろした。
コンクリートが
おれの尻を冷やした。
おれは
すき間の外に向かって
足を向けて座った。
それはちょうど
彼女に背中を向けるかたちになった。
すると
彼女に背を向けたままのおれに
彼女の声が飛んできた。
「こんな汚れた女には、背中しか向けらんないよね……」
違う、そんなんじゃない。
闇の中で
おれは返事をするための言葉を探った。
すべての同情の言葉や慰めの言葉は
口にした途端
陳腐に空回りしそうだった。
おれが背中を向けていることも
彼女への気づかいのつもりだったけど
その気づかいが彼女に起こったことの再確認になっていて
それが二重に彼女を傷つけているのかもしれない。
かと言って普通に振る舞うのも違うと思った。
おれは同情や慰めの言葉を捨てた。
背中を向けていることの言い訳も捨てた。
ただその時点で願っている素直な気持ちを彼女に言うことにした。
「きみを無事に家まで送りたい」
「送って……どうするの?」
「それだけだ」
「ごめん、男は信用できないの」
「……」
無理もないことだ。
おれには返す言葉もない。