スリー・イヤーズ・カタルシス



闇に


沈黙がおりる。



おれはこのまま



家に帰ったほうがいいのだろうか。



彼女は



おれのスウェットを身につけてくれた。



あとは



彼女が自力で家までたどり着くのを



願うだけでいいじゃないか。



ついさっきまで



彼女という存在さえ



知らなかったおれだ。



たまたま



おれがここを通りかかって



たまたま



彼女の小さな泣き声を聞いて



そしてたまたま



スウェットを渡してあげた。



それだけでも



さっきまであかの他人だった



者しては



十分すぎるくらいの優しさを分けてあげたことに



なるのじゃないか。



このタイミングで



じゃあ気をつけてと言って



この場を去るのが



いいのかもしれない。



男に陵辱された彼女が



男のおれを



信用できないというのは



もっともなことだし。



それに



おれがこの場にいつづけたところで



彼女が受けた深い傷を



いやす力があるようにも



思えない。





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