スリー・イヤーズ・カタルシス
彼女は顔を上げた。
「わたし、橘サヤカって言います。あなたは?」
「野谷マサキです」
「マサキくんね。
わたしね
ほんとうに
ちゃんとお礼がしたいの。
今日大事な用事とかある?」
今日はバイトがあった。
でも休もうと思えば休むことはできる。
「なんとかなります」
とおれは言った。
「よかった……
あなたのような
優しい男性もいると
わかって……
ほんと……」
彼女はまた俯いて
涙を流しはじめた。
こういう傷って
時間が解決するしかないんだろうか。
それとも
柔らかい腕の皮膚を
鋭くとがった金属で引っかいた跡のように
いくら時間が経っても
消えない傷として
いつまでも心に残り続けるのだろうか。
いつか消えてくれればいいのに
とおれは願う。
しかし
それは難しいのかもしれない。