粉雪
二人でバッグに詰め込んだのは、僅かな服と身の回りの物。


お互いが居れば、他に何も要らなかった。




『…明日、朝一で行こう。』


隼人は窓の外を見つめ、物思いに煙草を吹かした。


雨粒によって歪んだ世界が、この場所だけ別世界のように感じさせた。



「…うん。
でも、何か寂しいね。
この部屋には、思い出がありすぎるよ…。」


『…思い出なんて、俺らの中にあればそれで良いよ。
またイチから作れば良い。』



そっか。


あたし達は最初からずっと、お互いに何もなかったんだ。


ただ二人で築き上げたものだけで生きてきた。




「…行く宛ては?」


『…港町が良いな。
どっか、ゆっくり出来るトコ。』


隼人は最後の煙を吐き出し、短くなった煙草を消した。



「…そうだね。
疲れたもんね…。」


『…あぁ、疲れたよ…。』



その日、最後の晩餐であるように、隼人はチャーハンを作ってくれた。


相変わらず、卵とベーコンしか入ってなかったけど、やっぱり温かかった。


出会った雨の日には、こんなことになるなんて思ってもみなかったね。


隼人はあたしを愛してくれて、あたしも隼人を愛した。


愛し合わなければ、あたし達の運命は変わっていたのかな?


隼人が居てくれれば、他に何も要らなかった…。


それは今も、変わってないよ?




「…ねぇ、隼人…。
シンナー…止めようね?」


『…大丈夫だよ。
シャブと違って、依存性はねぇから。
それに、ちーちゃんと居る時は、あんなモンの存在忘れてたから。』


そう言うと、隼人は優しく笑いかけてくれた。





ねぇ、隼人…


隼人は何で、あたしを残して死んじゃったの…?



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