粉雪
「マツ、おかわりいるでしょ?
あたしの奢りだよ♪」


言いながらあたしは、適当な客のキープのボトルを持ち上げた。



『ま~た人の酒を出す…。
前から思ってたけど、手癖悪すぎなんだよ!
そのうち万引きGメンとかに捕まるぞ?(笑)』


「あははっ!良いじゃん、最近来てない人のだし!
でも、悪いことしたら、隼人と同じトコに行けるかなぁ?』


ため息を混じらせるマツに、だけどあたしは自傷気味に笑った。


マツは言葉を飲み込み、それ以上は何も言わなくて。


少しの沈黙の後、目線を下げ、ゆっくりと言葉を紡ぐ。



『…墨、入れたんだって…?』


「…うん、今日ね…。」



今日、あたしは自らの足に薔薇の花と“隼”の文字を入れた。


薔薇の様に棘を持ち、誰にも触らせないため。




『…勿体無ぇな…。
折角の綺麗な体なのに…。』


「…アンタ、いつ見たの?」


マツの言葉に、口元を引き攣らせた。



『写真。』


「―――ッ!」



一緒にホテルに泊まった時、隼人がセックスの間に撮った物だ。


未だに、あたしは見ることが出来ない。



『…あんな写真見せられたら、何も言えねぇよ。
お前がどんな風に愛されてたか、手に取るように分かるから…。』


「てゆーか、アンタが勝手に見たんじゃん…。」



だけど、マツの言葉に心臓が早くなる。


今まで辛くて見られなかった写真だけど、

マツの言葉に自然と安心してしまって。



あの写真には、隼人があたしを愛してくれた確かな証拠があるんだね。


ずっと、見られなくてごめんね…?




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