粉雪
「―――うわ~!
普通の家みたいになってる!!」



テレビの前にガラステーブルが置かれ、本棚の横にはパソコン。


ソファーまで置かれていて、あたしは目を見開いた。


まるで、昨日までと同じ部屋だとは思えない。



『俺もそー思う!
超頑張ったっぽくない?(笑)』


「あははっ!ホントだね!
じゃあ、良いこと教えてあげる~♪」


『え?何??』


煙草に火をつけようとしていた隼人は、手を止めた。


その瞬間、思い出したようにあたしは口元を緩ませる。



「来月末で、スタンド辞めるって言ってきた。
あと、明日はファミレスなくなった!」


『マジ?何で??』


「クリスマス働きすぎたから、マネージャーの配慮♪
スタンド3時に終わるから、そしたら暇人になるよ!」


『そっか、じゃあ、買い物行こう?』


そう言うと、隼人はあたしを後ろから抱き締めた。


何もかもが、嬉しくて堪らなかった。



「うん!」


『じゃあ、俺からもプレゼント~♪』


「―――ッ!」


そう言ってポケットから出てきたのは、隼人の家の鍵だった。


顔の前でユラユラとされると、人参でもつけられた馬の様に感じてしまう。


ご丁寧なことに、ブランドの物のキーケースにぶら下がっているのは、余計だけど。



「…ありがと…。
でも、鍵だけで良いし。」


『じゃあ、貸してやるよ!
キーケース。』


隼人は、いつも口が上手い。


どーにかして理由をつけては、色々な物をくれるんだ。


背中に重みを感じながら、その嬉しそうな声にため息をついた。



「…失くしたら困るし…。」


『…家の鍵の方が、失くしたら困るだろ?』


そう言うと、あたしにキーケースごと手渡した。


何だか納得がいかないけど、仕方なく受け取り、鞄に入れた。



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