青碧の魔術師(黄昏の神々)
強く抱きしめられる。

顎を掴まれ、自然な形であおのかされて、柔らかい物が唇を塞ぐ。

軽く触れる優しい口付けに、イシスは見開いた瞳を閉じた。

抱きしめられて口付けを受ける。

その余韻に浸っていると、突然抱きしめられる温もりと、唇を塞ぐ感覚が無くなった。

シュリがイシスを手放していた。

彼が、二、三歩後ろへ後ずさる。


『なっ……何をしているんだ俺は……』


自分のした事に、一番驚いているのはシュリ自身。

恥ずかしそうに頬を朱に染めて、シュリをうかがうイシスに、さすがに間違いとは言えない。


『間違いだった。自分でも口付けた理由が解らない。なんて事を告げれば、今度こそまともに嫌われるな』


そう考えて、はたと気付く。


『俺は、嫌われる方法を模索していた筈なのに、その実は、嫌われるのを恐れている。何故だ?』


それは、とても簡単な事。

だが、今のシュリには到底理解出来ない。


――本当は、決して離したく無い程、イシスを既に愛している。心のどこかで、セレナがいなくなってから、彼女が現れるのを心待ちにしていた――


だが、シュリは気付かない。

全て、無意識下での行動だった。

いずれ彼は、イシスへの思いを悟り、自分が立てた誓いを破って迄、彼女をその手に抱くだろう。

そして彼女は、彼の行動を至福の喜びとするだろう。

それ程迄に、永く続いてきた二人の思い。

セレナとシュリから、イシスとシュリへ。

それは世代すら越える、揺るぎ無い愛の形であった。


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