青碧の魔術師(黄昏の神々)
「ならば、トレントを退治したあかつきに、姫の婿になるのは、魔術師殿に決まりだな!」


『は? こいつ、何言ってんだ?』心の中で毒づくシュリは、不信感を漂わせエステルを睨む。

エステルは、そんな態度のシュリにも、何処吹く風で、呑気極まりない言葉を発した。


「別におかしな事を言っている訳じゃ無いんだが? 私は宣言した侭の結果論を説いているだけなのだよ……魔術師殿』

「トレント退治の褒賞金が姫自身と言うのは、間違ってないか?」

「褒賞金? まさか! 我が国一の、美女の誉れ高い姫なのだぞ、国を救った英雄に嫁がす事が褒美だとは思っておらぬよ。それに、褒美は別に出す」


確かに、姫を褒美にすると言った筈のエステルの言葉が、今では違う言葉に変わっている。

シュリは、表情の出ない顔をわずかにすがめると、真っ向からエステルに対峙した。


「英雄? そんなもの、はっきり言って俺には重荷だ。自分で言うのも何だが、そういうたちじゃ無い」

「魔術師殿が、特別な事をするのでは無い。貴方は、姫をトレントと言う魔人から、救ってくれれば良いだけだ。後は、民が貴方を英雄にする」


にっこりと笑うエステルの、裏が読み取れて、シュリは内心穏やかで無い。


『つったく、このタヌキが……なる程な、コイツの目的は俺の魔術師としての知識か……』


シュリと姻戚関係を結べば、ザイラスのロストした知識や技術がロンディア王国に、もたらされる。

それはほんの一部ではあったが、有ると無いとでは、雲泥の差だった。


「俺と姫との婚姻は、この国に知識と富みを約束する事になるから……か。考えたな王子。その為の歴史書か?」

「そんな、人聞きの悪い……そりゃ、知識に魅力が無いと言えば嘘になるが……」

「正直だな」

「ははは……それは褒め言葉かな? それに歴史書の事は、偶然の産物だよ。王立図書館に、貴方の素性を知る手掛かりが有ったとは驚きだよ。まぁ……全ての事象は、トレント退治が終わってからだね」

シレッとしたエステルの態度に、シュリが業を煮やす。

だが、そんな態度ですら表に出ないシュリ。

見事なポーカーフェースだった。

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