マリオネット・ワールド <短>
佐伯歩の全てに魅了され尽くした鳴海悠の心は、もはや留まることを知らなかった。
この男と共犯者になれるという喜び。
それだけで……
この男のためなら、この男に利用されるのならば……
喜んで、その狂気と罪の沼に、沈んでやろうとさえ思えるくらいだった。
「そうだ!ついでに誰か殺させてから自殺させれば?」
「あ?」
「死ぬ人間は何でもできるでしょう?」
「そうだな。自殺者のほとんどが、どれだけ恨みを持つ人物がいても、結局誰も殺さず一人で死んでいく道を選ぶのは、
自分がそうすることによって、迷惑を掛ける存在があるからだ」
「どうゆう意味?」
安直な提案にも、この男ならば冷静な根拠をくれると、女は信じていた。
「自分は死ねばそこで終わりかもしれないが、例えば残された家族は、
一生“殺人者の家族”というレッテルを張られたまま、生きていかなければならない」
「普通の人は、それを考えたらできなくなるってわけ?」
「あぁ。だから、ソイツにとって“大切な人”って奴がいないのなら、問題ないんだ。
自分が死ねば、それだけで終わらせることができるから」
「……驚いた」
「何が?」
元から、覗き込むほどの感情など持ち合わせていない佐伯歩が、人間の心を語っていること。
そのことは、女の瞳に酷く滑稽に映った。
それでも、鳴海悠にとって、佐伯歩が語る感情論は、どこか機械的な気がしてならなかった。