マリオネット・ワールド <短>
有沢知美に対し、鳴海悠は暗示をかけ続けた。
己の全てである“佐伯歩”を失いかけている有沢知美に言い聞かせる。
「好きな人を手に入れるためだったら、私ならなんでもするけどね」
「人殺しでも……?」
乏しい最低限の倫理観を抱えて、有沢知美は躊躇する。
そんな脆い足元をすくい上げることは、鳴海悠にとって雑作もなかった。
「もちろん!それで愛する人が手に入るのなら――」
それが世間の常識だと錯覚するように、何度も繰り返した。
薄暗い部屋の中だけで生きてきた女にとって、
鳴海悠がつくるものこそが、この女にとっての常識だった。
そして、無事目的を果たした後の有沢知美には――
「警察がアナタを疑ってるわよ」
何度も何度も、そんな強迫観念を植え付けてやった。
そうして最後に、鳴海悠は、終演の合図となる極めつけの言葉を送る――
「私だったら、愛する人に迷惑かけるくらいなら死ぬけどね」
こうやって鳴海悠は、次々に時限爆弾のスイッチを入れてやった。
強力な爆弾を作ったのは、佐伯歩。
そして、自分がその発火剤になっていることに、鳴海悠の全身はひたすら高揚していた。