切なさに似て…
信浩は目を大きく開けたまま、素早くバッと起き上がり、髪の毛をガシガシと必要以上に掻きむしる。

慌てて枕元に転がっていた携帯電話を開いた。


そんな信浩の機敏な動きを見たことがなかった私は、コーヒーカップに口をつけたまま固まってしまった。


ついでに、そんな焦った顔をした信浩も見たことがなかった。


信浩は携帯電話を手の中に握ったまま。

「何だよ…、焦らせんなよなっ…」

そう呟き、枕に顔を埋めうなだれた。


…あぁ、私が先に起きてるから寝坊したと思ったのか。

そう思った私は、唸る信浩にコーヒーを差し出す。


「飲むしょ?ってか、びっくりした?」

テーブルの上にコトッと置いた、コーヒーカップから立ち込める湯気の向こうで、信浩はこれでもかと頭を枕に擦りつけ合った。


「びっくりとかの次元じゃねーよっ…。マジ勘弁」

「あははっ。大成功だっ」

高らかに笑う私に、体を起こした信浩の睨みをきかせた視線が投げつけられた。


「…ふざけんな」

恐いと思わせる声色で呟き、コーヒーを啜る。


それに怯むどころか、調子に乗った私はニヤニヤと口許を綻ばせた。

「本当は上に乗っかってやるつもりだったんだよねー」

「2度と早起きすんなっ!!」

ゴトッと力を込めて置かれたコーヒーカップの中身は、一滴残さず飲み干されていた。
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