切なさに似て…
『…おいしーっ、じゃねーって!これは俺が貰ったんだつーの。食いたきゃ来週買って貰えよ』

『私は今食べたいのっ』

『んなの、知らねーよ』

私からケーキの乗った皿を取り上げると、当てつけみたいにパクパクと口へ運ぶ。


治と麻耶が、信浩の誕生日ってことで、部屋に置いて行ったショートケーキ1個。

一口くらい、味見させてくれたって罰は当たらないはずだ。

『ケチッ』

『誰がケチだ、こらっ』


つい思っていた言葉が放たれた口を慌てて塞ぐ。

ジロッと鋭い視線を送りつけて来る信浩。


『ったく、しゃあねーな。半分だけだからな』

目の前に差し出された、半分だけ残されたショートケーキと、ぶっきらぼうな台詞に、私の表情はみるみるうちに変わっていったのがわかった。


『いいの!?食べちゃっていいの!?』

『その代わり、来週は俺にも半分寄越せよ』

『わかってるよー…』

私の空返事に、信浩は溜め息をついたようにも見えた。


『食ったらさっさと寝るぞ』

『え?もう寝るのっ!?早くない?』

フォークを口に突っ込んだまま唇を尖らした。


『明日、俺、日直当番で朝早いから』

『…私には関係ないじゃん』

『ほぉー。んじゃ、起こしてやんねーからな』

『…すいませんでした』

余裕綽々な顔に、屈辱を味わいながら私は頭を下げた。
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