切なさに似て…
私にとって、こんなくだらないような朝のやり取りは、幸せだと思える瞬間だった。


唯一、信浩相手に素をさらけ出せる時間。


私は今日も寝起きが悪い、どうにもならないヤツでいい。

多分、明日もそうだし。


この先も、ずっと続く。


クローゼットの下の段に押し込まれた段ボールの箱から、適当に今日着る服を見繕う。

ポーチからではなく、バニティーケースからメイク道具を出して。

信浩の部屋にある小さな置き鏡を使わないで、箱の乱雑に詰められた少し大きめのミラースタンドに向かう。

豊富に取り揃えられた化粧品の数々のおかげか、普段よりも映えている気がする。



鞄に財布やポーチに携帯電話と共に突っ込まれた、この部屋の鍵。


いつもと何ら変わらない朝。

信浩の吸うタバコの匂いとコーヒーの香りが漂う空間に。

加えられたのは、私の荷物と私の帰るべき場所。


断固として拒否すればいくらだって出来たのに、それをしなかったのは。


まだ、形のない何かを期待しているのかも知れない。
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