切なさに似て…
「何も見えないんだけど…」

「ははっ。見えないけど音は聞こえるだろ」

信浩の笑い声が、唸る風の音に負けていた。


暴風と一緒になって、暴れまくる髪の毛が顔に張り付き、髪を掻きあげる。

何度後ろに持って行っても纏まらない髪に、いい加減諦め腕を下ろした。


「…ってか、風強いんだけど」

「海風ってのはそーいうもんだろ。まぁまぁ、そう言うなよ」

なんてごまかして、信浩は羽織っていたダウンジャケットを私の肩にかけた。


「いいよ、信浩が寒いじゃん」

突き返したジャケットがまた肩に乗っかる。


「いいから。俺がそんなに貧弱そうに見えるのか?」

「…見えない」


昨日の残ったカレーライスを平らげると、信浩は無言で私の腕を無理矢理引っ張り上げ、暖かい部屋から連れ出した。


ビルの隙間をぬって颯爽と走り抜けて行く車内は、終始無言状態。

何処に向かってるのか尋ねても、教えてはくれなかった。


どんどん街から離れて行く信浩が運転する車。

街の色鮮やかなネオンを背に、辿り着いた場所は、一面闇に覆われた海だった。
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