切なさに似て…
何だか知らないけど、隣で笑い声を漏らす信浩は、気でも触れたんじゃないかとさえ思う。

分厚い雲が天を覆い隠し、寒い空の下で何が楽しいのだろうか。


「…何で、海なの?」

「なんとなく」

あたかも理由なんかないみたいに言い切る。


「…ってか。いつも、寒い時にばかり連れて来るけど。どうせなら夏に来たいんだけど?何で夏じゃないのよ?」

「んなの、夏は水着姿のお前なんて見たかねーからじゃん」


決まり切ったことを聞くな。と付け足された言葉に、私は不満げな声を出した。

「…あー、そうですかっ」

「うぉっ、寒っ!」

そう叫び、信浩は車に逃げ戻った。


外に連れ出しといて、私にジャケットをかけといて…。なんなの?


ほんと、寒っ…。

肩を竦ませ、体を縮こめる。

着ていたファージャケットのポケットに手を忍ばせた時、ひんやりした鍵の感触が当たった。


『遠慮なんかすんなよ』

違う。そんなんじゃない。


…あの時も、この鍵だけは受け取りたくなかった。
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