切なさに似て…
「…おはよう、ございます」

ただならぬ雰囲気に、恐る恐る発した私の声は自然と小さくなった。

「…あら、おはよう」

澤田さんはこちらにちらっと顔だけ見せると、すぐに所長へと視線を移す。


自分の机の前まで来た時。

あれ、そういえば…。白崎さん見てないな…。

今週に入って、結城くんとお喋りするために早く着いていたのに。

まだ来ぬ隣の席を横目に、椅子に腰を下ろした。


…あっ。…そっか、その必要はなくなったんだっけ…。結ばれたんだもんね。

『なんと、今日。結城さんとデートなんですよー』

と、嬉しそうにしていたことを頭の端っこで思い出す。


そっか…。

私、フラれたんだったっけ…。


「立花さん、悪いんだけど…。これ、今月中にお願いね。決算と提出書類と…」

澤田さんが明らかに悪いとは思ってはいない様子で傍に来て、私の机の空いているスペースに、数々のファイルを山積みにした。

「これ…。全部、ですか…?」

厳しい目を向けられ、どう見ても一人では今月中には終わらないような量に、「無茶です」とでかかった言葉を飲み込む。


「仕方ないでしょ、白崎さん辞めたのだから」

深い溜め息と同時に放たれた台詞に、私は目をひんむかせた。
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