切なさに似て…
枕を高くすれば安眠できる、とはよく言ったものだ。

布団を深く被ってみても、枕を高くしてみても。横を向こうが、仰向けになろうが。

ちっとも眠れないで、時間ばかりが過ぎていく。


枕に顔を埋めれば、持ち主の信浩の匂いが鼻腔を突っつく。

シャンプーの香り。

香水の香り。

タバコの香り。

柔軟剤のフローラルの香り。


様々な香りが入り混じる。


つい数時間前までは、確かにここにいたのに。

たわいもない話しをして、笑っていたはずなのに。


頭の先から爪先まで布団でおおわれているというのに。いないだけで、こんなにも寒い。

今頃、私はベッドですやすやと寝ている予定が、主のいない部屋に独りきり。


明かりを消し、無意識に耳を研ぎ澄ませ、息を潜めて。

マンションの廊下を歩く誰かの足音が近づいてくれば、“もしかして…?”と、高鳴る。


静まり返る廊下に響き渡る、金属が擦れる音。

遠くで聞こえる度、“違う”。と、がっかりする。
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