切なさに似て…
あれから信浩は戻ってくることはなく、私は一睡もできないまま朝を迎えた。

入れたコーヒーはいつもよりずっと苦味が深く感じる。

それは寝ていないからか、そういう心境だからかはよくわからない。

それとも、上手く機能していない思考に、分量を間違えてしまったのだろうか。


出かける時間が迫っているというのに、ギリギリまで扉を開けなかったのは、スウェット姿で出て行ってしまった信浩が、着替えに戻って来るのではないかと考えたから。

でも、戻って来ることはなく。


地下鉄の階段を下りた時、ふと思い出す。

「そういえば、予備のスーツ。…車に積んでるって言ってたっけ…」

…忘れてた。信浩は変なとこで用意周到だったっけ。


信浩も土曜の晩は家を空け、彼女のところにお泊りで。私に合わせていたのか、今となってはわからないけれど。


帰ってくるわけないじゃん…。

心の中でポツリと呟いた独り言に、急に虚しさが溢れ出る。


会えたからって、何を話せばいいのかは見出だせないけれど。

あんなことを言い出した理由くらいは、知りたかった。
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