切なさに似て…
冷たい水で濡らしたタオルで両方の瞼を隠す。

あまりの冷たさに、意に反して冷静さが取り戻されていく。


このまま何も考えないで、彷徨っていたい。


昨日はベッドだったから今日は布団。

廊下を歩く人の足音に、息を殺して。

…違う、信浩じゃない。


いつまで、独りでこんなことを繰り返していればいいの。


信浩がいたから。

笑っていられた。

生きていられた。


いなくなったら、意味がない。


何でもわかってるみたいな顔して、全然わかってないじゃん。


私の、…勘違いじゃなかったってことだけはわかったから。

だけど、勘違いしてるのは信浩も同じじゃん。



虚しいだけなのに、開き直ってみたりして。

悲しいだけなのに、笑ってみたりして。

泣きたいのに、唇噛み締めてみたりして。


喉の奥を冷ますのに作ったカシスオレンジは、いつもより渋いのに、そこの座椅子に信浩が座っているみたいで。


独りなのに、余裕見せてみたりして。

無駄な悪あがき。
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