切なさに似て…
「はぁ…。仕方ない、帰ってくるの待とう…」

一泊分の着替えを詰め込んだバッグを抱え、マンションの外壁にもたれ掛かる。タイルのひんやりとした冷たさが背中伝う。


どのくらいの時間が流れたのか、あえてしまい込んだままの携帯電話を開くことはしない。

画面を開いて時間を確認してしまえば、きっと淋しさが押し寄せてきて、こうやってただ待つだけの時の流れから逃げ出しそうになる。


やっぱり来なければよかったとか、やっぱり帰ろうかなとか。

ネガティブな思考ばかりがぐるぐると頭の中を何度となく駆け巡り、地に着いた足はたまに浮き上がっては再び地面へと押し付ける。押し付けていた背中も夜風に浮いては、熱が篭ったタイルへと戻される。


それくらい、今ここで帰りを待つという行動が、躊躇われる。

会いたくて来たくせに、どんな顔して会えばいいんだろう。と、肝心な場面で逃げ腰になる。


このマンションの住人だろうか、OL風な格好をした女性や大きな鞄を肩に抱えた男性。これまでに数人が私の前で足を遅めるも、何気ない様子で通り過ぎて行った。

今、表通りから歩いてこちらに向かって来るスーツを着たサラリーマン風の男の人。
< 330 / 388 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop