切なさに似て…
「…もう急にいなくなったりしない?」

大きな胸板から少し顔を浮かせて、見上げるように信浩の顔を覗き見る。


「しない。つーか…フラフラしてんのは柚果だろ?」

信浩は、ん、違うか?と、私の顔を見下ろした。


…何、フラフラって。


「信浩だってフラフラしてんじゃん。だから私もフラフラするんじゃないのっ」

って、反論してみたものの、自分でも何を言っているのかは理解できていなくて。


誰が聞いたって明らかに“腹いせ”にしか聞こえない。

よくドラマにありそうな…。

『あんたが浮気するなら私もするから!』

そんな感じ。


信浩の顔を一瞥すると、やはり呆れた様子で深い息を吐き出して、密着していた身体は完全に離れてしまった。

そしておもむろにタバコに火を点けて、勢いつけて煙りを吐き出す。信浩の顔の前で紫煙が幕を張る。


また可愛いげのない態度を取ってしまったことに後悔するも、信浩の口から飛び出してきた台詞に、私は眉と眉の間に深い掘りを刻む。


「柚果がフラフラして他の男んとこ行くから、俺もそうしてたんだつーの」

何を言うのかと思えば、どう聞いても売り言葉に買い言葉。


ここはどっちか引かなければいけない。

そう思いながらも、まるで私が悪いみたいに言われて黙っていられるわけがない。

ほら、ああ言えばこう言うみたいになった。口元に手を当てたってもう遅い。
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