切なさに似て…
*****

1年前、仕事終わりの帰り道。

帰路は逆方向だというのに私の隣に並び、影を追い掛ける。


『付き合ってください』

夕日を背に一弥からそう告げられた。

スカルプの香りに惹かれ、目の前で照れ臭そうな表情を浮かべる彼に。

『私でよければ…』

そう返事をしたことに、後悔はしていない。


『赴任して来てから、ずっと好きだった』

『1年間ずっと見てきた』

『手に入れたいと思った』

一弥が言い立てた言葉に嘘はないとわかった。


…ただ、『私でよければ』と答えた私の言葉に嘘が隠されていた。


当時、私には別の男性がいた。

今となっては名前も思い出せない。


20歳になった年の夏に、SNSでさっちゃんと出会ったのと同時期に、同じサイトで知り合った男。

異性の方が現実の世界でも、バーチャルの世界でも話し易かった。

女みたいにねちっこさがなく、サバサバしてるからなのか、例え画面上でも話しが弾む。


ディスプレイに魅了され、導かれるように出会った人は。

『柚に惚れた』

何の工夫もないその一言を投げ付けられ。

『家行こ』

疑い無く、私は餌に誘われる蟻んこみたいにホイホイと着いて行った。
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