切なさに似て…
黙りこくる私に突き刺さるくらいの視線が降り注ぐのがひしひしと感じ取れた。


「意地っ張り」

冷たく突き付けられた台詞に、顔を上げる。


「意地っ張りじゃなくて、これは信浩には関係ないことだからっ…」

私の目を怖いくらいに見つめる信浩は口許を綻ばせ。


「ふっ。そりゃ、そーだ」

鼻で笑い飛ばした途端、テーブルを寄せた。私がいつか溢したコーヒーの跡が染み付いたカーペットが露わになり、畳まれたペタンコの布団を敷くとその上に寝転がる。


「もう、寝る、おやすみー…」

怒ったのか、機嫌を損ねた信浩は深く布団を被ってしまった。


時計の針は21時を回ったばかりで、今時幼稚園児でも起きている時間帯。寝入ってはいないはずだ。


「おやすみ」

聞こえたかどうかはわからないけれど、そう声をかけた私の口から出た溜め息。


鍵を持ってろと。荷物持って来いと。何を思ってそう言ったのか意図はわからないけれど。

信浩の申し出は今の私には有り難い状況だし、素直に好意を受け取ればいいのかも知れない。

土日以外、散々ここに通い詰めているんだから、別にどうということはないはずだ。


テーブルの上に置かれた鍵を見つめ、やり場のない思いを残っていたカシスオレンジと一緒に、喉の奥へと流し飲む。


タオルと着替えを胸に抱え、浴室に体を滑らせ静かに扉を閉めた。
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