切なさに似て…
「は?」

私は眉間に皺を作り、たった今ビールを飲み干した信浩に視線を移す。


“で?”って聞かれても、何がなんだかわからないのは当然である。

鍵を持ってるようにと言ったあとに、“で?”と、連想させるようなことが何一つない。

そもそも、何で鍵を持ってろと、言うのかさえも謎だった。

私に目線を置いたまま新しいビールを手にした信浩。

その脇で冷蔵庫のドアが勢いよく閉まる。中の物がガチャンッと音を立てた。


「で?」

「何が…?」

再びかけられた疑問に、私の眉は更に皺を寄せ付ける。

「何が…?そりゃ俺が言いたい。明日、どうしようかなって、何がだ?」

そう言った口に含んだビールはごくっと信浩の喉を鳴らした。


「荷物ならここに持って来いって、そこの下開いてんだから。なんなら運んでやるよ」

言葉を吐いた信浩の表情は険しく、その顔の裏側で私の頭の片隅にあった事態を全てを悟っていた。


「いいよ。自分で何とかするから」

顔を下に伏せ、テーブルの上に置かれた鍵を突き返す。


せっかくの好意なのに、自分でも可愛くない態度だと思う。

だけど、この好意だけは受け取れない。
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