僕は彼女の事を二度愛していた
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そこに、大河内がいるなんて考えもしなかった。
恵と絵里香も、同じ水族館にいた。この水族館は、テレビとかでも紹介される事もある、ちょっとした有名なスポットだ。特に、大水槽が圧巻で、まるで映画館のようにシートに座ってゆっくり見る事が出来る。これが人気の理由だ。
「うわぁ、何回見てもすごいね。」
大きな鮫が何匹も、我が物顔で泳いでいる。
「いいよね、絵里香は・・・。何回も、彼と来ているんでしょ・・・。」
さらっと自慢する絵里香に、恵は軽くむくれた。
「そんなに怒らないでよ。恵だって、大河内さんと来ればいいでしょ。たぶん、うまくいくと思うんだけどなぁ。」
「そうかな?うまくいくかな?」
「うん。」
「そっか。やったね。」
根拠のない絵里香の言葉でさえ、恵は悲しいほど反応してしまう。すっかり機嫌が良くなっている。
「あ、ここ空いているよ。」
ちょうど、水槽の最前列が空いていた。いつもの日曜なら絶対に座る事の出来ない特等席だ。
もっとも最前列に座っても、水槽の前に立っている客もいるので、独り占めと言う訳にはいかないが、それでも十分に満足できる。
「うわぁ、そばで見ると迫力が違うね。」
上を見上げ、鮫の腹を眺め、二人ははしゃいでいた。
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