僕は彼女の事を二度愛していた
62
水槽の前にあるシートは、とても座れる余裕はなかった。しかたなく、水槽の前に立って見る事にしたが、逆にこれが迫力を増してくれる。
僕達を歓迎するように、エイがこちらをめがけ泳いでくる。そして、ぶつかる瞬間にひらりと上に上っていく。これは座っていたら味わえない。
「きゃっ。」
ぶつかる訳などないのに、彼女は小さく叫んだ。まさに、僕のツボだ。
「大丈夫だよ、ぶつかる訳ないから。」
「・・・うん、わかってるけど、すごいスピードだったから、つい・・・。」
「もしかして・・・菅沼さんって、小心者?」
「ち、違うよ。今のはたまたま。」
ムキになって否定するところも、ツボだ。彼女は、僕の好きな仕草や態度を、本当によくわかっている。昔から、僕の事を知っているみたいだ。
「たまたま?ホントに?そうは見えなかったけど・・・?」
「だって、ホントだもん・・・。」
少し拗ねた顔も素敵だ。今すぐ、ギュッと抱きしめたくなる。でも、そうする事はもちろん出来ない。代わりに、彼女の小さな手をギュッと握りしめていた。
< 199 / 264 >

この作品をシェア

pagetop