僕は彼女の事を二度愛していた
60
僕達は、水族館に来ていた。色鮮やかな魚達が泳ぐ様が、幻想的な世界を創っている。
僕の注意を引く水槽があった。そんなに大きくはないけれど、クマノミが何匹か泳いでいる。それがとてもかわいかった。
思わず顔を近づけ、そのクマノミ達の楽しそうな泳ぎを楽しもうとした。側によると、水槽に僕の顔が映っている。
「こっちにおいでよ。」
なぜか、彼女は一歩下がって見ていた。その彼女を、呼び寄せた。
ゆっくりと、何かためらっているような足取りで、水槽の前に立った。
「ねっ、かわいいでしょ?」
「うん。」
子供のように、クマノミの事を見ていた僕は気がつかなかった。
水槽に、彼女の顔が映っていなかった事を。
< 197 / 264 >

この作品をシェア

pagetop