勝利の女神になりたいのッ!~第1部~


彼の腕の中で目が覚めた。


ボンヤリとした視界に映るのは白く透き通るような彼の素肌だった。


スベスベとした陶器のような肌を惜しげもなく晒す彼の胸に頬を寄せて私はもう一度瞼を閉じた。


「紫衣」



背中を滑るように往復する彼の掌のぬくもり

私の名を呼ぶ甘い彼の声に微睡んでいた私は一気に目が覚めた。



「うきゃっ!!」



体を強ばらせ離れようとする私をクツクツと楽しそうに笑って引き寄せる彼。



その腕は華奢に見えるのに力強かったんだ。



引き寄せられるまま彼に身を委ねると降り注ぐ雨のように落ちてくるのは唇。


甘い甘い彼のキス。



夢のような出来事だった。


けれど現実だと教えてくれるのは甘い気だるさを残す私の体だった。



「昨夜はその…すまなかった。」



ふいに落とされる言葉に私の瞳からは涙が溢れ出した。



「なぜに泣く?」



ただ首を横に振りながら涙を流す私の瞼に触れる唇。



彼は後悔しているのかしら…



胸がズキズキと傷んだ。


彼の腕の中から出て背中を向けたまま昨夜、乱雑に置かれたままの着物に袖を通した。



彼のぬくもりから離れて冷たい着物を羽織ると体が寂しいと悲鳴をあげる。



幸せだと感じたのは私だけなのだろうか…


もしかして…


私は彼になにか嫌われるような事をしたのかもしれない。



「あの…昨夜のことは忘れて下さい。」



彼に背を向けたまま震える声を抑えて言葉を落とした。



「なぜ?」



なぜって…

じゃあ、どうして謝るの?



黙り込む私の背後で彼が着物を羽織る衣擦れの音が聞こえてきた。



部屋を出て行くのだろうと思うと涙が溢れてくる。



何がいけなかったんだろう。


初めてがいけなかったの?


面倒だと思ったの?



シクシクと痛むお腹にソッと掌を置いて私はあいたもう一つの手で涙を拭った。








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