平安物語=短編集=【完】



「こんな月夜は、どうも家に籠もっていられませんで。

あなたは何をなさっていましたか?」


そう問われ風流な返事も思いつきましたが、やはり失恋に気づかせてやろうと思って、

「あわれ深いお手紙に、返事をしたためておりました。」

と言うと、さすがにムッとしています。


フフンとほくそ笑んでいると、

「そう言えば朧月夜の君は、素敵な恋人の光源氏ではなく、誠実に愛した帝に真実の愛を見出したのでしたね。

朧月夜の風流を解するあなたなら、きっと同じ考えをなさいますよ。」

と言って、いきなり御簾を引き上げて入って来ました。


「きゃ…」



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