平安物語=短編集=【完】



しばらくして、更衣の忘れ形見である若宮が参内した。

正直、どんな顔をして会えばいいのか分からなかった。

私のせいで、生まれてすぐに母と死に別れた我が子を、果たしてこの腕に抱く権利が私にあるのだろうかと…


若宮の乳母が、若宮を抱いて私に見せようと近づいて来る。

背けていた顔を、恐る恐る我が子に向けると、



「なんと…」

涙が溢れた。

目元や口元、鼻の形など、更衣によく似た男の子だった。

やおら微笑むその無垢な笑顔も、まるで生き写し…


更衣の遺した若宮を抱き取って、男泣きに泣いた。



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