平安物語=短編集=【完】
いよいよ当日。
格別にお支度あそばした中宮様は、思わず見とれるほどの神々しいお美しさです。
萌黄の襲(モエギノカサネ)をお召しになった中宮様はすっきりと清らかで、厳かに着飾るよりも慕わしい素晴らしさがおありです。
「こんなにお美しくては、帝も桜どころではないでしょうね。」
そんな女房の軽口も、もっともなことと思われます。
私も含めた女房達も、ここぞとばかりに着飾るのですが、中宮様の御前では春の霞ほどの役割も果たしません。
宮様は、中宮様の御意向で同じく萌黄をお召しになりました。
同じ色を召したお美しい母子は、睦まじくお手を繋いで移動なさいました。
宮様もお揃いの御衣装をこの上なくお気に召して、危なっかしいほどはしゃいでいらっしゃいます。