平安物語=短編集=【完】
ほう、と一つ嘆息して、
「本当に、素晴らしいお手紙ですわ。
とてもお返事なんて書けません。」
と申しますと、
「何を仰います。
さあ、早く書いておしまいなさい。」
と仰って、硯と紙を寄越してくださいました。
渋る私を東宮様がしきりに促されますので、しぶしぶ筆を取ります。
紙は東宮様のものだけあって、女御様のものに負けず劣らず良い香が染み込んでいました。
『時めける春の根元の影故にわろき筋なる梅忘るらむ
あなかしこ』
と書きますと、横から覗いていらした東宮様が
「これまた随分、謙遜なさいましたね。」
と愉快そうに笑っていらっしゃいます。
そんな東宮様を聞き流して、梅壺の梅の枝を一枝手折りに、女房を遣りました。